自律訓練法
1.自律訓練法とは
1932年、ドイツの精神科医シュルツによって考案された、「心身全般の変換を得るための生理的で合理的な訓練法」(Schultz,J.H 1932)で、心身の緊張・興奮状態を、落ち着いた・リラックスした状態へ切り替える方法です。
自己暗示の効果をもとに作られたトレーニングを繰り返し行い、除去したい症状や自分でも気づかぬうちに負担となっていたストレス状態の解消を目指します。
きちんとトレーニングを継続することで、特定の場合や特別な人ではなく、多くの人が充分に効果を得ることができます。
心療内科・精神科においては、行動療法・認知行動療法などの心理療法の一つに分類され、うつ病や不安障害、過敏性腸症候群をはじめとする心身症などの病気の治療に用いられています。
また一般にも、ストレス対処法や病気を未然に防ぐ健康維持・増進法として広く取り入れられています。
2.事前の準備と練習姿勢
事前の環境調節
以下のような練習環境ですと、リラックスしやすいです。
・音(静かな場所) ・光(照明がまぶしくないように)
・温度(暑くも寒くない、ちょうどよい室温)
・体をしめつけない服装(腕時計、ネクタイ、ベルトなどは、はずす・緩めるとよい)
・極端な空腹時、満腹時は避ける。小用は先に済ませておく。
特に練習初期では、リラックスできる環境の中でリラックスしていることを確認するように練習を行えるとよいです。
練習姿勢
自分のやりやすい姿勢で行ってください。
① 単純椅子姿勢(シンプルな椅子でおこなう)
② 安楽椅子姿勢(背もたれのゆったりしたソファなど)
③ 仰臥(ぎょうが)姿勢(ベッドや布団に横になる)
椅子を使って練習する場合は、深く腰かけて安定した姿勢をつくりましょう。
3.標準練習の公式と消去動作
自律訓練法の練習公式
練習では、下の公式を暗唱します。背景公式から第二公式までの練習は「簡易自律訓練法」と呼ばれます。
背景公式(安静練習) 「気持ちが落ち着いている」
第一公式(重感練習) 「両腕が重たい」・「両脚が重たい」
第二公式(温感練習) 「両腕が温かい」・「両脚が温かい」
第三公式(心臓調整) 「心臓が規則正しく打っている」
第四公式(呼吸調整) 「楽に呼吸をしている」
第五公式(内臓調整) 「おなかが温かい」
第六公式(前額部調整) 「額が心地よく涼しい」
消去動作
公式を暗唱したら、消去動作を行って心と体を目覚めさせます。体の末梢から体全体に向けて、動かしていきます。勢いよくパッパッと行うことがポイントです。
4.練習手順(簡易自律訓練法)と受動的注意集中
練習手順
1.公式
環境と姿勢が整ったら、目を閉じて、
背景公式: 「気持ちが落ち着いている……」×3
第一公式: 「両腕が重たい……」×3 「両脚が重たい……」×3
第二公式: 「両腕が温かい……」×3 「両脚が温かい……」×3
と心の中で暗唱します(大体2分~4分くらい)。
*練習のポイントは「受動的注意集中」です。
2.消去動作
練習で弛緩した体を覚醒させます。
指先の運動→腕の曲げ伸ばし→大きく伸びて深呼吸(このとき目を開けます)
1.と2.を3セット繰り返します。
受動的注意集中
公式に対応した心身の変化(例えば、気持ちが落ち着いているかどうか)に積極的に注意を向けるのではなく「ぼんやりと意識を向けます」。
本来、注意を集中するという行為は能動的なものですが、これを受動的に、心身の「緊張が弛緩していることを確認する」よう気楽に行えるようになると、リラクセーション効果はぐっと高まります。
5.受動的注意集中と自律性解放
練習のポイント、注意点
朝3セット・昼3セット・夜3セット、それぞれきちんと練習をおこなうと練習が進みやすいです。記録をつけながら、経過を観察してみましょう。
「毎日コツコツ」取り組むことが大切です。「とにかく多く練習する」「長い時間練習する」ことで早くマスターできるというわけではありません。
効果を感じられるように頑張るのではなく「気楽に、気長に」行っていきましょう。雑念やムズムズ感(自律性解放)は、次第に消失するあたりまえの現象として受け入れましょう。
自律性解放とは
心身がリラックスした状態の時は、普段は気を張っていて気が付かなかったような気持ちの状態や体の状態に気づくことがあります。一日の終わりに布団に入って落ち着いたとき、多忙な日常から離れた休日に、なぜか昔の嫌な思い出がふっと頭をよぎる、ふと体の不調を確認するという経験のある方もいるかもしれません。
練習の初期段階では、練習中にそのような雑念が浮かんだり、体(まぶたなど)がぴくぴくと動いたりして練習に集中しにくいことがあります。しかしながらその多くは一過性のものであり、練習の経過とともに次第に軽減していくのがふつうです。
練習中に気分が悪くなったり、つよく不安を感じる場合は、消去動作をおこなってからゆっくりと過ごしましょう。
6.練習を行うにあたって
記録について
練習での様子を、カウンセラーから配布された記録票に記入し、練習の進み具合を確認しましょう。始めのうちは、練習を忘れてしまったり、記録がうまくかけない方もいらっしゃいます。少しずつ習慣として取り組めるよう努力しましょう。
自律訓練法の効果について
練習の公式に対応した心身の変化(四肢の重たさ・温かさ)を得られるようになることを「練習効果」、継続的練習による症状の除去、ストレス対処能力の向上を「習得効果」といいます。効果の感じ方には個人差があり、「練習効果」が得られるまでには、2週間から1カ月くらい、「習得効果」が得られるまでには3か月から6カ月くらいの期間がかかります。焦らずにじっくりと練習を続けていきましょう。
【ワーク】自律訓練法を実施にやってみましょう。
練習手順にそって、簡易自律訓練法を各自行い練習記録を書いてみましょう。
※以下の項目を記載し、Word形式で保存した上でメールに添付して送付してください。
———–ここから下をコピーして記録を作成してください———-
【自律訓練法 練習記録】
・氏名:
・実施日: 年 月 日( )
・時間:
・練習中に起こったこと:
※公式(気持ちが落ち着いている、両腕が重たい・暖かい)以外の身体の変化や心理的変化を(例:手がチクチクした感じ。まぶたがピリピリする。お腹が鳴る。仕事のことが気になる。イライラする。眠ってしまう。思い出が浮かぶなど)、できるだけ具体的に書いてください。