疾病教育 第1回

疾病教育 第1回

第1回:睡眠

今回は、私たちの健康にとって重要な睡眠について理解を深めていきたいと思います。

睡眠が必要な理由

そもそも、なぜ私たちは睡眠を取らないといけないのでしょうか。まずはその理由を見ていきましょう。

①脳と体の疲れを取る
人間の脳は常に活発に活動していてたくさんのエネルギーを消耗しています。
脳の疲れをとるには、体の疲れをとるよりも数倍の睡眠が必要だといわれています。
また、脳の疲労を回復できるのは、ノンレム睡眠、深い睡眠だけといわれています。質の良い睡眠が大事です。

②ストレスの解消
ストレスを感じる状態は、脳が疲れている状態であるともいえます。睡眠をとることで疲れた脳を休ませることができるため、睡眠は非常に効果的なストレス解消法といえます。

③身体の成長や老化防止
睡眠中は成長ホルモンが分泌される貴重な時間です。寝入りから2回目までのノンレム睡眠のとき(寝ついてから3時間くらいの間の深い睡眠の時)、成長ホルモンが大量に分泌されます。
この成長ホルモンは細胞の成長と修復、および活性化に役立つとされています。また、肌を再生させる働きもありますので、アンチエイジングにも効果が期待できます。
体全体の修復には大体6時間半~7時間かかると言われているので、朝の起きる時間が6,7時だとすると23時から0時にはくらいには眠りについているのがよいです。
睡眠物質であるメラトニンの分泌も夜中の2時がピークといわれていますので、この時間に寝ていることが深い睡眠にもつながります。

④病気の予防
睡眠時には骨髄で白血球、赤血球、リンパ液などが再生され、血行が促進され、体が持つ抵抗力や免疫力を高める働きもあります。
また、睡眠の悪化は生活習慣病をはじめとするさまざまな身体疾患に影響を及ぼします。例えば睡眠時無呼吸症候群はメタボリックシンドロームにしばしば合併し、高血圧・脂質異常症・糖尿病・高尿酸血症・逆流性食道炎などを増悪させます。
睡眠不足や睡眠障害によってさまざまな生活習慣病が増悪するメカニズムが徐々に明らかになっています。睡眠薬などを使って不眠に対処することにより生活習慣病が改善することも明らかになっています。

⑤記憶の定着、学習効果の効率化
人の脳は睡眠中に、その日に起こったこと、学習したことを整理し、記憶としてとどめておく必要がある情報を定着させているといわれています。
特に、浅い睡眠であるレム睡眠時に脳の中では多くの情報の整理が行われていると考えられています。
一般的にレム睡眠は、就寝後3時間ほど後から周期的に表れるといわれているので、試験前でもそれ以上の時間眠っておくことが必要だと思われます。
よく、試験日前に一夜漬けをして、一睡もせず試験に臨む、というような話を聞きますが、これでは記憶が整理されていないので、本来の学習効果が十分に発揮できない可能性があります。

    ポイント

    ・現代社会は、シフトワーク(交代勤務)の増加・通勤や受験勉強をこなすための短時間睡眠・夜型生活の増加など、睡眠や体内時計の変調を引き起こすさまざまな要因で溢れています。
    ・睡眠不足や睡眠障害による休養不足は人間の精神と身体に悪影響をもたらします。例えば短時間睡眠や不眠が続くと、強い日中の眠気・作業能率や注意力の低下・抑うつなどが出現し、結果的に人為的ミスの危険性を増大させます。
    ・睡眠は休養に必須であるだけではなく、記憶・気分調節・免疫機能の増強など、さまざまな精神機能や身体機能に関連しているとされます。健やかな睡眠を保つことは活力ある日常生活を送るための基本であるといえます。

睡眠のしくみ

レム睡眠とノンレム睡眠

私たちの眠りには、深い眠りと浅い眠りがありますが、科学的には、「脳波」「目の動き」「筋肉の動き」によって「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」に分類されています。
レム睡眠の「レム(REM)」は、その特徴の一つでもある「急速眼球運動=Rapid Eye Movement」の頭文字をつなげた名前。このときの夢は鮮明で情動的なものが多く、体の機能の点検と頭の中の情報整理、記憶の固定という重要な仕事をしているといわれています。

ノンレム睡眠は、急速眼球運動が見られないということで、“レムではない(Non REM)睡眠”という意味で「ノンレム睡眠」と呼ばれています。ノンレム睡眠は、安らかな眠りで、この間に脳は休んでいます。
この2種類の眠りがセットになっており、寝ついてから目覚めるまでに、深いノンレム睡眠からはじまり、浅いレム睡眠になり、また深いノンレム睡眠を経て、レム睡眠に入るという1セットのリズムを何度か繰り返します。
レム睡眠とノンレム睡眠のセットの合計時間は70分~110分と個人差があり、一晩の中でも差や幅がありますが、平均約90分で1つの周期になっています。
一晩にこの平均約90分周期の睡眠単位が4~5回くらい繰り返されます。睡眠の前半には深いノンレム睡眠が多く出現し、ぐっすり眠って脳を休ませます。睡眠の後半にはノンレム睡眠はほとんどなくなり、朝方には浅いノンレム睡眠やレム睡眠が増えるため、目覚めやすいと考えられます。

睡眠リズム

人が眠くなるのには、主に2つのパターンがあります。
まず一つ目は夜になると眠くなるというのが、もっとも一般的な睡眠のしくみです。これには、私たちの体の中でリズムを刻む“体内時計”の存在が影響しています。
この体内時計は脳の中、ちょうど目の裏側にある視交叉上核という場所で目からの光を受け、睡眠と覚醒や体温、ホルモンの分泌など、約25時間周期のリズムを刻んでいるのです。

このおよそ一日のリズム、「概日リズム(サーカディアンリズム)」の調節によって、私たちは毎日眠くなったり目覚めたりしています。
このサーカディアンリズムを調整する働きがあるのがメラトニンというホルモンです。このホルモンが分泌されることによって眠くなります。

メラトニンは目覚めてから14〜16時間経過で分泌され、その作用で深部体温が低下して、休息に適した状態に導かれ眠気を感じるようになります。
メラトニンは睡眠が深まっていくと減少し、朝、光を浴びると、脳にある体内時計がリセットされて活動状態になり、メラトニンの分泌は止まります。

不眠症状について

ここからは不眠症状のタイプを説明していきます。不眠症状は不眠症とは別です。不眠症状は不眠という症状が出ているだけで、不眠症ではありません。
2005年の睡眠障害国際分類第2版によれば、不眠症とは
A) 入眠困難、睡眠維持困難、早朝覚醒、回復感欠如などの夜間の睡眠困難
B) 適切なタイミングと適切な環境下で起こること(適切な時間帯に床で過ごす時間が確保されている)
C) 夜間の睡眠困難により、疲労、不調感、注意・集中力低下、気分変調などの日中のQOLの問題が起きている
とされています。

夜間睡眠困難の症状の有病率は日本では20%前後、睡眠困難の症状と日中のQOLの低下を伴う臨床的な不眠症で13%と推定されています。
ここでは前者の症状の部分、不眠症状についてお話していきます。

不眠症状の4つのタイプ

ここに書いてあるように、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害の4つのタイプに大きく分かれています。では一つ一つについて、見ていきたいと思います。

①入眠障害
いわゆる寝つきが悪いというタイプです。人によって、またその日のコンディションによっても変わってきますが、布団に入ってから眠りにつくまでに時間がかかるます。
目安としては布団に入ってから眠りにつくまでの時間が30分から1時間以上かかることが週3回以上です。この判断は医師によってまちまちなところはあります。ここで大事なのが、本人が苦痛に感じているかどうかです。

②中途覚醒
いわゆる途中で起きてしまうタイプ。寝た後に起床予定時間よりも前に何度も起きてしまう状態です。
睡眠の質が悪くなってくる、浅くなってくると起きやすくなる。加齢に伴って徐々に増加する傾向にあります。回数が著しく多かったり、日中に強い眠気が出現する場合に障害と見なされます。

③早朝覚醒
朝早く起きてしまうタイプ。7時に起きようと思っているのに、4時とか5時とかに起きてしまってそこから眠れなくなってしまったりします。これも加齢とともに増加する傾向にあります。うつ病の時にも特異的に出現することがあります。
中途覚醒と早朝覚醒の境目が分かりにくいですが、起きる時間によって変わります。中途覚醒もそうですが、また寝られるかどうかでストレスを感じる度合いも変わってきます。
入眠障害のところでも触れましたが、自身が負担や苦痛を感じているかどうかということもポイントです。早く起きたけれど、すっきりしているからまぁいいかと思っていれば、それはそれで構わないと思います。

④熟眠障害
よく眠れた感じがしないタイプです。睡眠時間は十分でもぐっすり眠った満足感が得られない状態です。
睡眠時間はとれていても、深く眠った感じがしないというタイプで、原発性不眠症で悩んでいる方に多いですね。原発性不眠症とは日常生活で誰にでもあるようなちょっとした出来事やストレスなどを起点として不眠が始まり、そのような起点となった出来事が消滅した後になっても不眠の症状だけが持続してしまう不眠症です。
実際に眠りが浅いという方もいますが、睡眠の波形を記録して問題がなかったとしても、眠れてないという感覚を持つことがあります。

不眠の要因

①身体的原因
様々な身体的疾患による痛み・かゆみ・発熱あるいは喘息発作や頻尿などの身体症状によるもの。たとえば、腹痛とかがひどい場合、ケガしたところの傷が痛くて眠れない場合、咳が出る場合などがあります。

②生理的原因
急激な環境変化や生活習慣が変わった時、不眠の要因になる時があります。時差ボケや交代勤務などで体内リズムがくるってしまうことも含まれます。

③心理的原因
ストレスによるもの。仕事のミスや人間関係のトラブル等、不安や心配によるものです。
就職、転職、結婚、出産などライフイベントといわれる人生における大きな出来事もさまざまなことが不眠の原因になります。

④精神医学的原因
気分障害、神経症性障害、統合失調症などの精神疾患に伴い、引き起こされるものです。精神疾患を抱える多くの方に併発します。

⑤薬理学的原因
薬の副作用や嗜好品によるもの。睡眠薬の依存・離脱も含まれる。薬剤については副作用で不眠症状が現れることがあります。
副作用はお薬の説明書に書かれていますが、副作用として不眠の可能性が書かれていたとしても、副作用が出るかどうかは個人差があります。気になることがあれば、お医者さんや薬剤師さんに相談することをお勧めします。
重要なポイントは嗜好品のアルコール、カフェイン、ニコチンです。アルコールは飲むと眠くなりますが、眠りの質が悪くなります。カフェインとニコチンは覚醒作用がありますので、入眠の妨げになります。

不眠症状を改善する12の指針

1.睡眠時間は人それぞれ。日中の眠気で困らなければ十分。
2.刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法。
3.眠たくなってから床に就く、就床時間にこだわりすぎない。
4.同じ時刻に毎日起床。
5.光の利用で良い睡眠。
6.規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣。
7.昼寝をするなら、15時前の20~30分。
8.眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに。
9.睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意。
10.十分眠っても日中の眠気が強いときは専門医に。
11.睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと。
12.睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安心。

【ワーク】自分の睡眠状況をふり返り、具体的改善策を考えよう!

講義内容を読んで気づいたこと、感じたことをメールに書いて報告してください。また、睡眠に改善が必要と感じている方は、「不眠症状を改善する12の指針」等をヒントに具体的な改善策を考えて、メールに書いて報告してください。
📝選んだ項目、準備が整っていると思われる状態をメールに書いて報告してください。報告の形式は、メールに直接打ち込んでも構いませんし、Word等を添付する方でも、形式は構いません。

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