認知行動療法(CBT)第5回

認知行動療法(CBT)第5回

第5回:適応思考を考える

これまでの回で、私たちの感情・行動・身体反応に影響を与える自動思考(勝手にわき起こる考え・こころのセリフ)や、その思考の枠を広げる方法である認知再構成法(5カラム法)について学んできました。

今回は5コラム法をベースに、どのようにバランスの取れた考え方(適応思考と言います)ができるかについてお話をします。

前回のホームワーク確認

・5コラムを用いて、エピソードを最低1つ整理してみましょう。
・整理した自動思考にはどのようなこころのクセが隠れていたか検討してみましょう。
代表的なこころのクセにぴったりあてはまらない場合もどのようなこころのクセがあったか整理してみましょう。
・上記の内容を、本日のワークと一緒に提出してください。

適応思考を考える

本日は適応思考について考えていきたいと思います。適応思考はよく「ポジティブに考えられるようにするもの」、「今の考えを変えるようにするもの」と捉えられがちですが、それは正しい認識ではありません。

適応的に思考するというのは「視野を広げたバランスの良い考え方」と表すことができます。バランスの良い考え方をしていくことで、自動思考が感情や行動、身体反応に与える影響を少なくしていきます。「このように考えるとこう感じる」といった検討を進めていくことで、適応的な考え方を目指していきます。

適応とは・・・

そもそも、適応ということばについて皆様は考えたことがありますでしょうか。

今回のテーマでもある「適応思考」にも同じ言葉が使われています。適応という言葉には、「その場の条件に良く当てはまること」といった意味がありますが、この意味を人間の生活に当てはめて考えると、「社会生活を問題なく(スムーズに)送れる状態」と考えることができます。

つまり「適応思考」というのは、合理的であることや、正しいことを目指していくのではなく、個人や社会が受け入れることができ、自身の気持ちが楽になるなかで生活を送ることができるための考え方となります。

適応思考を考える際のポイント

適応思考を考える際は、以下のような問いかけをしてあげることで検討するヒントを得ることが出来ます。
 
1. 根拠と反証を「しかし」でつないでみましょう。
 例:車内アナウンスでも荷物がぶつからないよう注意喚起していが、その人が荷物が
   ぶつからないよう工夫できる状態とは限らない。

2. 最悪のシナリオ、最良のシナリオ、現実的なシナリオは何か?
 例:最悪 ―その人がぶつけていることに気づかず、さらに押し込まれる。
   最良 ―その人がぶつけていることに気づき、荷物の位置を変えてくれる。
   現実的―お互いにぶつからないように工夫する。

3. 第三者の視点から
 「ほかの人が同じ立場にいたらなんて言ってあげられるだろう。」
 「○○が聞いたらどうアドバイスしてくれるだろう。」

4. 経験を踏まえて
 これまでに同じような体験をしたことはないか。
 その時にどのような事を考えたら楽になったか。
 以前の経験から学んだことで役に立ちそうなことは何か。

5. もう一度冷静に
 見逃していることはないか。
 自動思考と矛盾する出来事はないか。
 自分の力だけではどうしようもない事柄について、自分を責めていないか。

これらのポイントを活用し、考えを整理していきましょう。

【ワーク1】不快な感情の伴う出来事を、コラム表を用いて整理してみましょう。2エピソード分やってみましょう。

下記の例を参考に、自分のエピソードを整理してみましょう。
(例)
状況:不快な感情を伴う出来事
・帰りの電車で、吊革につかまり乗車していると、後ろから二人組のうちの一人のカバンが何度も背中にぶつかってくる。

感情:不安、悲しみ、落胆、怒りなど(強さ0~100%)
・イライラ70%、呆れ50%、諦め40%

自動思考:その時に頭に浮かんだ考え(こころのセリフ)(確信度0~100%)
・「電車に乗るときは荷物を前に抱えるか、ぶつからないようにするものだろ。」と思った。(確信度80%)

根拠:どうしてそう考えたのか。
・車内アナウンスでも荷物がぶつからないよう注意喚起している。

反証:自分の考えと逆の事実や例外となる事実はないか。
・その人が荷物がぶつからないよう工夫できる状態とは限らないし、ぶつかっていることに気づいているかは定かではない。

適応思考:根拠と反証を「しかし」でつないでみる。
・車内アナウンスでも荷物がぶつからないよう注意喚起していが、その人が荷物がぶつからないよう工夫できる状態とは限らない。

今の気分(強さ0~100%)
・イライラ30%、呆れ20%、気楽さ40%

CBTを活用する

さて、ここ数回のCBTでは認知再構成法を扱ってきましたが、なぜリエンゲージメントで認知行動療法を行うか皆さんはしっかりと理解できていますでしょうか。

CBTの最大の目標は、自分で認知行動療法を使ってストレスに上手に対応し、自身をコントロールしていくこと(セルフ・コントロール)でした。そして、就労場面では、生活リズムの管理、症状/特性/性格の理解、ストレスマネジメント、ビジネスマナ―、報連相、コミュニケーションなど様々な力が求められますが、働く際にはこれらの活動に対して、自分の力で課題に気づき修正をしていく力が一層求められてきます。CBTはそれらの問題を解決していくための一助になってくれます。

例えば、抑うつ感が強まったときには、どのような出来事に対して反応していたのかを整理することで、どういった捉え方や対処が適切かを検討することが出来ます。自分の状況を客観的に観察して理解していくための工夫として、CBTを活用することは非常に有効だと考えられます。

今の自分はどの地点にいるか?

リエンゲージメントでは「知る」「わかる」「できる」のステップを重視しています。プログラムを受けたことで自分は今どの段階にいるのかを常に問いかけることで、次に何をしていけば良いかを考えることが出来ます。

知識を得たことに満足せず、就労場面を意識するなかで、自分は今どの地点にいるのかを確認し、セルフ・コントロールに繋げていきましょう。

【ワーク2】考えてみよう

(1)CBTのプログラムを受け、「知る」「わかる」「できる」のステップのうち、今自分はどの段階にいるのかを考えてみましょう。
(2)そのうえで、今の自分の課題やこれから取り組む必要のあることは何かを整理してみましょう。

ワーク1~2を実施しましょう

ワークを実施し、内容を報告メールで送ってください。Wordファイル等をメールに添付しても結構ですし、メールに直接書いて送っても構いません。

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